松井冬子展@横浜美術館

3/7/2012

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横浜美術館で開催中の、松井冬子展「世界中の子と友達になれる」に行ってきました。
客層は妙齢のご婦人方と学生のほか、中年男性が目立って多いのが特徴的でした。
展覧会自体は日本画独特の陰影が真近に見られるのと、軸装が桁外れにセンスが良かった!!
この二点は画集ではカバーされていないので、ぜひ実際に目にするべき企画だと思います。
感想はそこそこに、彼女についてちょっと思ったことを書き留めておく。


私がはじめて彼女を知ったのは、2007年のBRUTUSの特集で、たしか各界で活躍する美人を集めた号だったと思う。
まずあまりに美人なことにびっくりし、ゴシックなアイメイクと着物のセンスの良さに二重で驚いた記憶がある。

その後、NHKの特集番組で制作風景を見て、作業中のあまりのフルメイクっぷりに「化粧するのが儀式的あるいはおまじない的に習慣化されてるか、よほど自分の美貌に自覚的なんだろうなあ」と考えていたが、彼女の作品を見て、おそらくその双方だなと確信。
病的にグラデーションにこだわる(彼女の選んだ技法上、それが限界まで追求できる)、モチーフが幽霊や女の情念系であることもあわせて、『自分の美貌に自覚的かつ職人気質を持った不思議ちゃん』という認識を深くした。

その認識が狂わされたのは、その後放送された上野千鶴子との対談を見たとき。
彼女自ら上野女史とに対談を希望したというのにまずビビった。
だってあのフェミニズムで喧嘩腰で面倒臭そうで取り巻きに囲まれてちょっとでも反論しようもんならこてんぱんにされそうな(あくまで私のイメージです)、あの上野女史だよ??
ちょうど彼女の名前が一般化してきた頃とはいえ、わざわざそこに行くかね?と思いつつ、見守っていたら、なんと終盤で「あなたは幸せになっていいんだよ」と、優しくおだやかに諭されてるではあーりませんか。あらあらびっくり。
中盤を見てないので話の流れは不明だけど、さすがの上野女史も美人には甘いねと、多少意地悪な目線を持ったのは事実だが、それを差し引いても上野女史にここまでさらけ出す彼女の無防備さ(たとえそれが計算づくだった可能性があるにしても)、そして大御所の懐に飛び込む度胸、ただものではないですよ。

彼女の作品解説で「ここに描かれている女性は、腹を割いて、子宮を、どうだ!とみせびらかしているんです」という一見意味不明なコメントも、根深い男性不信と、美への執着が根底にあると理解できれば、すんなり納得できる。
だからこそあの怪奇な画風で、だからこそ上野女史で、だからこそあのメイクなのだ。
おそらく、メイクは自分を守るための鎧としても機能しているはず。

昨年の紅白歌合戦で審査員をつとめた際は、難解なコメントでお茶の間を煙に巻いた松井嬢。
婦人画報では、お茶の先生でもあるお母様とグラビアページに登場し、一部に夜の銀座要素が濃すぎると揶揄された松井嬢。
あの美貌の内側は、驚くほどの純粋さと、暗く歪んだ魂が、少女のように同居してるにちがいない!!と思います。
それゆえに彼女と彼女の作品は、成熟した大人をひきつけるのだろうなあ。。

面白いことに、人の魅力としての構造は、林真理子によく似ています。
両者とも、作品と作者の本人の容姿が密接に関わっていて、かつそれを商業的に利用している点。そして両者とも、知識層の男性に人気がある点。同性から憎まれない点。
この共通項と構造は、もう少し掘り下げて考えてみたい気もするのですが、疲れてきたのでまた今度。