光文社「Very」一強時代を崩せるか 素人女性誌ウォッチャーによる2019年ワーキングマザー誌短評

SNSの全盛期と若者世代の可処分所得の少なさが相まって、ジリ貧と言われて久しい「女性誌」界隈。

そもそもコンテンツにお金を払う感覚が希薄になってるので、ファッションを追うならIGで十分じゃんと思ってる若年層はかなりいるらしいです(私調べ)。

 

購買してくれそうなユーザー予備軍にリーチしたい企業が一生懸命広告出稿してお金を出してくれないと、メディア価値を失った雑誌はどんどん落ち込んでいくので、なんとか紙媒体とWeb媒体で戦っているというのが現状です。

付録ありきじゃないと買ってくれない20代に比べ、お金を出して雑誌(コンテンツ)を買うという行為が習慣化されてる30代のマーケットは、出版社にとって最後の主戦場と呼んでもよいぐらい成熟しています。

 

そこに異変が!

ターゲットを「ワーキングマザー」に絞った雑誌が出てきました。

shogakukan.tameshiyo.me

「Domani」です。

 旧コピー:働くアラフォー、仕事もおしゃれも、楽して楽しく!

 新コピー:ニッポンのワーママはかっこいい!

実際は新創刊ではなく新装刊、方針変更なんですが詳しくは後で述べます。

 

その前に、女性月刊誌を展開している各社の情報をまず整理しておきましょう。

大きく3社が競っている状況ですが、分かりやすくキャッチコピーをつけてみました。

 

女の花道」は、光文社独特の、いかに資本力を自分のものにするという課題を主に自分の美貌で切り拓くタイプを想定してつけてます。

 小学館集英社はそれぞれ総合出版社としての立ち位置の微妙な違いを無理くり言語に落とし込んでみた試みとしてうけとめてください。以下どうぞ。

※媒体資料とよばれる広告主向けの詳細情報を網羅して読み込んでいるわけではないので、読者層と編集方針については私の独断と偏見でこの記事を書いていることをご理解ください。

※下手な学生の業界研究になってるのは自覚してますし恥ずかしいので指摘しないでくださいっ。 

 

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ー女の花道ー 光文社

・20代/JJ …センスと意識高めの女子がターゲット

・R35/CLASSY …都市部の仕上がった肉食系美人の物欲をつかさどる。ジュエリー掲載頻度高

CLASSY.〔クラッシィ〕 | 光文社 AD WebSite 

 

・既婚子持ち/「Very」 …言わずとしれたママ雑誌No.1。月間の広告収入が5億とぶっちぎり。

VERY〔ヴェリィ〕 | 光文社 AD WebSite

 

・40代/STORY …veryを卒業した中高生ママがメイン、美容の記事多め

 

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ー「今」をおさえておきたいー 小学館

20代/Cancam …アイドル至上主義。雰囲気がおしゃれでさえあれば良い。

30代/Oggi …働く女性ターゲット、BAILAやCLASSYよりシンプルめ。

働くR40→ワーキングマザーに方針転換/「Domani」 …毎月から隔月刊行へ。今回取り上げます。

40代以上/Precious …グレージュ大好き、バカンスとファッションにお金を惜しまない

 

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ー好かれたい、悪目立ちしたくないー 集英社

30代/BAILA …Seventeen(セブンティーン)→non-no(ノンノ)を経た堅実OL

40代/Marisol …社会人経験10年以降の働く女性、ファッションの比重が高め

50代/eclat …キャリアの有無は打出さず、旅行とグルメ記事多め

30−40代/Lee …既婚、子持ちのほっこり系ママがターゲット、料理記事多め

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ここでは、an-an擁するマガジンハウスとか、付録で一稼ぎの宝島社、ハイクラスをおさえるハースト婦人画報社世界文化社などを除いています。

講談社女性月刊誌を持っていますが、読者層をそのまま上の世代に送り込むような姉妹誌特性を生かした狙いをしていないので今回は外しています。

 

お分かりでしょうか。

「働く」「子持ち」はそれぞれ個別でターゲットに据えられていますが、「働く」+「子持ち」(=ワーキングマザー)でターゲットを特化した女性誌は無いんですよ今のところ。

 

実は先例があるにはあるんです。

天下の講談社が、30代女性誌でストイックにファッションを誌面に落とし込んでいた「Grazia」で、2012年にワーキングマザーにターゲットを絞るという思い切った方針転換を目論みました。ところが、1年たらずで休刊してしまいます(事実上の廃刊)。

 

サイゾー女性誌レビューで取り上げられてましたので、こちらで当時の空気感を読み取れます。

 

www.cyzowoman.com

www.cyzowoman.com

 

私は結構好きだったんですこの雑誌。

 

女性誌では定番の夏冬海外スナップも、「ワーキングマザー」に的を絞って紹介していたり、Veryでは不足していたキャリア観など、なんとなく餓えてたけど手に入らなかった情報を上手に与えてくれていた気がします。

でも、そんな私でも「Grazia」を毎月買わなかった。

 

f:id:kurihashi64:20190108131217j:plain<気に入った号だけ手元にあったので、Domaniと並べて撮ってみました>

 

当時、なぜ「Grazia」に共感できなかったのか理由を考えてみました。

 

2012年って私の肌感では、ようやく「普通のワーママ」が復職してこられるようになってきた時期でした。それまでのワーキングマザーって自分の体力か実家か仕事か家庭状況かのいずれかがお化け並みに飛び抜けてる方ばかりで、そうでないケースは産休に入ったらそのまま復職せず辞めちゃうケースが多かったのです。

ちょうどロスジェネ世代が妊娠可能年齢を数年残すばかりになった時期でもあります。

 

そういう意味で過渡期だったので、働く母として情報はいくらでも欲しいんです。

お手本にすべきロールモデルみたいなのの、母数がそもそも少ないわけですから。

けれど、「Grazia」で展開されるのは意識高めの母親像ばかりなので、正直雲の上のワーキングマザーを見せられても現実とのギャップを噛み締めるだけで辛いし、それに加えて掲載アイテムのお値段って結構強気だったんですよね。そこで萎えちゃう。

(ちなみに日経DUAL https://dual.nikkei.co.jp/article/015/20/の創刊は2013年11月)

 

一方で、専業主婦向けだと思っていた光文社「Very」がちょっとずつワーママ特集を組んだりし始めました。いわゆる「普通のワーママ」が増えてきたことにうまいこと対応していくことにしたわけです。

 

 参考:2013年9月号「働くママの幸せな時間」

www.fujisan.co.jp

もともと「Very」は子育てしてるママの情報が得意かつ豊富。

読者へのヒアリングがしっかりしているので、誌面のそこここに実感が込められたり今気になる情報をきちんとおさえてくれますし、ファッションと読み物のバランス含めて非常に素晴らしい出来なのです。わざわざワーキングマザー専門の情報を取りに行かなくてもいいやっと、わたしがある意味諦めてしまったんですよね…。

 

…そんな2013年の「Grazia」の尻すぼみを経て、2019年。

「Grazia」と同じような経緯をたどって、「Domani」がワーキングマザー専門誌になったというじゃありませんか!

期待半分、冷やかし半分で買って読みました。

 

まず表紙がパンチが効いてます。

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黒い表紙って最近なかなか見かけないですよ、往年の「G系アラサー雑誌」

を彷彿とさせる強さ。

媚びてない。

目線が強い。

子持ち女性の演出によくある「多幸感」とは距離を置いた、エッジの効いた印象を与えます。

クールなビジュアルとは裏腹に、リード文は振り切って「脱❤️ママ!脱❤️モテ!脱❤️真面目!」と攻めてます。この温度差。

 

 

いざ本特集を読んでみると、ファッション写真の前に前段というのか編集会議のブレストみたいなクオリティの雑感を見開き2ページで、地色にショッキングピンクを選んで、黒ゴシック体でぶっこんでくるイキった感じ。嫌いじゃないです(笑。

 

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その後も、レスリー・キーばりのモノクロ写真が続いたり、「あえて」の黒を日常に身につける提案を進めたり、広告主向けに「黒の名品」を集めて提示したり。

 

「黒」ってどっちに転んでも難しい色で、キツい印象を与えないようワーママ界隈では避けられてきた色でもあるのですが、そこをカツーンと突き抜けて好きなもの着ようとする新しい世代のワーママをレペゼンしていくよ!という矜持を感じさせてくれます。

とはいえリニューアル1号なので、まだまだ荒削りだし、トーン&マナーが行き届いていないところも散見されますが、それもご愛嬌。

ちょっと異色ではあるけれど、今まで眠ってた層を掘り起こせる可能性を秘めてます。

どうか「 Grazia」のように1年で休刊せず、新しいマーケットを開拓してください!

期待してますマジで。

 

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今号で黒をあれだけ推しておいて、次号ではしれっと白を特集しちゃうあざとさが憎めない…。 

 

おまけになりますが、ロスジェネちょい上の世代のスタイリストお二人の対談。

スタイリストブームで名前を売った2人、それぞれの仕事観、30代の過ごし方、ものすごく面白く興味深かった。まあこの世代だから当たり前ですけど、死ぬほど仕事してます。大草直子さんは3児の母ですよ。

 

mi-mollet.com

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お互い会ったことなかったという2人の対談を実現させてしまう、講談社はこういうところ真摯に拾ってくるから好きなんだよなあーとしみじみ。

「Grazia」の残り香のようなものも感じてしまいましたとさ。