96年ロングバケーションを2018年にみる理由/ネタバレしかしない

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前回記事をはてなダイアリーで更新したのが2015年。

その間にLINEがメッセンジャーアプリの王様として君臨し、mercariがヤフオクを凌駕し、共働き世帯が専業主婦世帯を上回るようになり(あ調べたら結構前から超えてるな)、東京オリンピックが決まり(あ調べたら2013年だった)、視聴率でフジテレビが一人負け、はてなダイアリーはてなブログに統合されることになり。私の周りがゴゴゴゴと動いてる感じです。

 

米エンタメ界隈だと、ビヨンセがキャリア上最高に音楽面で攻めたアルバムである「Lemonade」

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をリリースして大成功をおさめたのが2016年。

 

NetflixやHuluなどの配信サービスが続々とオリジナルコンテンツを製作するようになった一方、ファンタジーとお色気と現代性を絶妙に絡めた米HBO「GOT(ゲームオブスローンズ)」

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が世界規模で大ヒット(ちなみにファイナルシーズンは2019年に放送予定)。

 

ディズニー史上初?「王子様とのハッピーエンド」に着地しなかった2014年アナ雪のヒット以降、長編アニメーションや実写化映画でも現代性を備えたストーリーが支持を得、2017年にMr.トランプが大統領に就任してからは、人種多様性や女性のエンパワメントを支えるコンテンツを育てようと試行錯誤しているハリウッドの奮闘も続いています。

 

ファッション業界でいうと、おとぎ話を具現化したような豪華なショーを展開していたジョン・ガリアーノが2011年に人種差別発言でDiorをあっさりクビになり、今までの芸風とは正反対のマルタン・マルジェラのクリエイティブディレクターに就任して禁欲的な創作活動を始めたのが2014年。そして、Dolce&Gabbana(ドルチェ&ガッバーナ)がデザイナーによる人種差別発言によって炎上し、一夜にして中国マーケットを失った2018年。

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また、もはや中毒性や依存性までが指摘されるほどに日常生活に根を張りつつあるSNS界隈では、2012年にFacebookに買われたInstagramが買収後も順調に成長を続けたものの、育て上げた共同創業者の2人がFaceBookを去った2018年。

 https://www.instagram.com/p/BoIvH_Fgdxm/


こうやってダラダラ書き連ねてみるだけでも、結構世の中揺り戻しと揺れの中で日々変化のスピードがキュンキュン早まっているように感じるのは年のせいでしょうか。

年のせいですね。

 

そんな2018年の暮れ、竹野内豊破局報道を目にして「若い頃の色気やばかったな」とふらりと思い出し、96年のドラマ「ロングバケーション」をみたわけですYoutubeで。

さっそくですが、キュンキュンぐるぐるしたところを順番に挙げていきますよ。

 

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①携帯電話がない時代のドラマの制約が逆に効果的

スマホが無い時代ってもう想像つかない世代がもう20歳代になってるわけですよもはや。固定電話の子機、親機とか説明してもわからないだろうし、電話にFAXがついてる必要性とかもいまいちピンとこないでしょう。私もしばらく忘れてましたしこの感覚。

ドラマの登場人物は、意中の相手から着信がないことを固定電話を見つめながら悩んだり、留守電メッセージに自分の声を吹き込んだり、メッセージを残す時には一発録りなので緊張したり、固定電話って家に固定されてるので電話で親密な会話ができるシチュエーションが家の中に限定されたり、相手が外出してる時は連絡の取りようが無かったりするわけです。

加えてテキストメッセージのやり取りをカジュアルにできるわけじゃないから、好意を伝えるのは実際に会った時の一発勝負。だからこそすれ違いが生まれたり、相手を前にしてうまく自分の素が出せなかったり、ドラマ上のドキドキハラハラが成立するわけですねー。懐かしみです。

 

②30超えた女性の扱いが酷いし辛い

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90年代半ばには「クリスマスケーキと女の婚期は等しい」っていう謎理論がありましてですね。24日(24歳)が一番売れて、25歳くらいで結婚、26過ぎたらたたき売り状態になるという、今考えるとなんとも気分の悪いたとえが世に当たり前にはびこってたわけですよ。実際、ロンバケで南を演じる山口智子は「29歳のクリスマス」という名作でそのあたりの焦燥を痛いぐらいに演じています。

ヒロインの南(山口智子)は2話以降でもモデルとしてお局扱いされる姿が描かれ、スーパーのチラシとかそういう単価の安く小さい仕事しか来なくなったと嘆くのはまあわかります。だってモデル=美=若さという図式が成立する職業ですから。

しかし、1話で花嫁衣装で登場した段階で嫁き遅れ扱いなところで「?」となり、ちょいちょい南が自分の年齢31歳を自虐するところで「??」、8話では、年上のカメラマン杉崎になびいた理由を主人公の南自身が「30超えた自分を女の子扱いしてくれて、好きと言ってくれる(から杉崎さんが好き)」と吐露しているところで力尽きた。ううう、辛い。なんなのこの苦行。

22年前の31歳ってこんなひどい状況だったの?と頭を駆け巡る一方で、「今ってまだマシなのかも」「もっと良くしなきゃ」と未来への希望が湧き上がってきたりします。

はなはだ逆説的ではありますが。

 

松たか子の演技力が「恐ろしい子!」級

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 登場人物の中で一番歳の若い奥沢涼子役を演じるのは、新人女優時代の松たか子

初見の時は10代だったので、役柄上のあざとさやぶりっ子ちゃんポジションに目がついてイライラしたのだけど、今見ると結構現代的な女性なんですよね。

自分の都合が悪くなるとその場から走って逃げ出すという悪癖はあるものの、分からないことはわからないというし、自分が何を求めているのか必死に探って奮闘している姿がリアルっちゃリアル。

1人の女性の中の揺れ動く内面を無理なく表現してるのは、ひとえに松たか子の類稀な演技感覚によるものなのだと、2018年に初めて気がつきました。これは業界に愛されるわけです。彼女の仕事が途切れないのはここら辺が理由なのだなと拝察します。

天才だな。

 

 ④キムタク節が定着する前の瑞々しい木村拓哉

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スマップのパラエティ番組「SMAP×SMAP」が放映開始されたのは、ロンバケと同じ96年4月。95年まで同局で展開されていた「夢がMORI MORI」の後継番組として、月曜夜10時に満を持して登場。月曜9時のドラマ枠から10時のバラエティまで計2時間、木村拓哉を堪能できる仕掛けでもあったんですよね。

 

96年当時は、ジャニーズ事務所所属の芸能人が演技をする場合、俳優というよりアイドルの課外活動的な扱いを受けていたと記憶してます(うろ覚え)。

 ドラマ主演して主題歌もヒットさせたというアイドルの嚆矢は、どうやら田原俊彦らしいのですが、キムタクは一俳優として「ロングバケーション」というドラマ全体のあくまで一端を担うことに徹したように思えます。往年の「キムタク節」というか、自信満々の強気なキャラクターばかりを見慣れてる人にとってはこの瀬名という繊細な役を演じるキムタクは新鮮に映るんじゃないでしょうか。

 

また、印象的なのが、山口智子の印象をインタビューで聞かれて「すごい女優だなって思ったと答えているところ。いや、彼は自分自身をアイドルじゃなくて俳優とみなしてるんですよねこの時点で。言葉の選び方に注意ですよ。

当時大手俳優事務所「研音」のトップ女優であった山口智子を相手にとってのこの自信に満ちた発言。同じ俳優としてこの同じ舞台に立っているという自認に根ざしたキムタクの発言を、エゴイスティックととるか、それも含めて魅力ととるか。

もちろんあすなろ白書などで2番手を演じてきっちり評価されたというのも後押ししているでしょうが、それでもその発言に説得力をもたらすだけのスター性を持っていることがこのドラマでよ〜くわかります。

 

⑤製作がフジテレビであることの意味

一応製作当時96年の状況を整理しておくと、フジテレビはが日テレの後塵を拝し2番手に甘んじる中、それでも看板の「月9」ドラマで戦っていた状況です。

キムタクは当時TBSとフジテレビのドラマにコンスタントに出演してましたが、圧倒的にヒット作が多いのはフジテレビ製作なんじゃないかなーと。「あすなろ白書(93年)」「若者のすべて(94年)」からロンバケに、その後「ギフト(97年)」「ラブジェネレーション(97年)」「HERO(01年)」のヒットの流れに続くわけです。ちょっと近年のフジの凋落からは想像つかないと思いますが。

 

ちなみに、あすなろ/若者/ロンバケを担当したのが亀山千広プロデューサーで、その後踊る大捜査線シリーズなどを手がけトントン拍子に出世して、2014年には社長にまで登りつめてます。

96年当時かなり勢いがあったのは確かなようで、ロンバケの最終回ってロンドンでロケ敢行してるんですよね。よく海外ロケの予算取れたなーというのがサラリーマンの所感。

そのあたりの空気感が当時の番宣にもよく出てるので、下記は一見の価値あり↓↓

 

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話はさらにそれますが、フジテレビの日枝会長体制は1988年からスタートして現在も影響力が続いてるらく、ライブドアによる買収騒ぎが耳目を集めたのは2005年のことなんですよね懐かしみ。

 

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こうやって整理して自分自身はじめて理解した部分もあるんですが、この時代の空気感、特に山口智子に内包される「サバサバして率直な女性像」というのはつまり、男性側に都合の良いキャラクターでもあるんですよね。

サバサバしてるから、男並みに扱えるし文句も言わない、でも弱さも孕んでいるからこそ女として黙って男を受け止めてくれるという、言い方は極端ですがこういう見方もできる存在です。

雇用機会均等法が86年ですから、96年当時でもまだまだ女性は軽く扱われ、それでも必死に仕事を求めて「男並みに」奮闘していた時期でもあります。

実際ドラマの最終回では、南が瀬名に「はい、あなた」と返す最後のシーンがあります。たぶん当時の視聴者にはキュンキュンきたとは思うんですよ。

でも2018年に見返して、ドラマ中で最も違和感を覚えたのがこの台詞。

脚本上はハッピーエンドのつもりで書いてたのでしょうが、「え?そこは亭主関白が正解なの?対等なんじゃないの?夫に従う姿がラストシーン?」と突っ込まずにはいられなかった。

 

当時の女性の限界がここに定められていたというのは辛い現実ですが、その4年後「やまとなでしこ(00年)」で結婚に対して超現実主義な主人公がヒットし、男女のイーブンな関係を掘り下げるドラマが「逃げるは恥だが役に立つ(16年)」の登場を待つまで現れなかったことを思うと、なんというか隔世の感があります。